滴る

杳です。

好きなものの季節が来て、街でよく見かけるようになりました。

 

誰かが、それは死を連想させると言いました。言ったのは自分だったかもしれませんが、思い出せない。雨に打たれつつも天から顔を背けないその姿に、静かな諦念を感じるからでしょうか。

それは古来より日本にあり、万葉集にも詠われています。日本人にとっては紛うことなき梅雨或いは夏の季語です。

現在最も一般的に見られるものは、元々日本に自生していた原種が西洋に渡り、品種改良を経て日本に帰ってきたもののよう。花言葉も異なるようで、渡来したものは「移り気」「高慢」であるのに対し、原種が持つのは「謙虚」。

元の種は別の名を「額の花」「額咲き」と云い、中心に集まった小さな蕾のような花びらの周りを、蝶々が舞うように大きな花びらが取り囲む様子をよく表しているようです。また、花の色がよく変わることから「七変化」の名も持ちます。咲く土壌のpHによってその花の色が変わると最近聞いた話を思い出しつつ。

 

さて、ここまで読んでおわかりでしょうか。最後に、それを詠んだ婉麗な歌を三首紹介します。その淡い色合いとその花弁に滴る月光にはなんと艶のあることか。

 

茜さす昼はこちたしあぢさゐの花のよひらに逢ひ見てしがな(作者不明)

あぢさゐの花のよひらにもる月を影もさながら折る身ともがな(源俊頼

夏もなほ心はつきぬあぢさゐのよひらの露に月もすみけり(藤原俊成