コーヒーにまつわるあれそれ

雨が降っている。絶好のコーヒー日和といえる。雨の日に飲むコーヒーは最高だからだ。

今朝豆を挽きながら色んなことを思い出した。最近はとんとやっていないが、とかく人のためにコーヒーを淹れる機会が多く、私はそれを愛している。

小さな会社で仕事をしていたときは、よく社長さんにお願いされてコーヒーマシンをいじっていた。機械なんだから人によって味が変わったりしないんだろうけどね、本来の仕事じゃなくてこんな仕事ばっかり部下の女性に頼んでいては怒られてしまうねなどとよく言っていた。それでも私はその作業が大変好きだった。コーヒーマシンはそれまで触ったことがなかったけど、いつもおそるおそるだったけど、大変好きだった。
それより前、カフェで働いていた。カウンターで注文して受け取って席に着く形の店だった。思えばその時から、人を恭しく迎えたりにっこり笑っておつりを渡したりすることがコーヒーを淹れることよりも好きだった。

それからずいぶん時間が経ったけど、自宅を訪ねてくる知人の多くは私のコーヒーを楽しみにしてくれている。そわそわしていようとどんよりしていようと、コーヒー淹れようかと言ってみるとぱっと顔が綻ぶ。私はそれらの顔が好きだ。待っている誰かの存在を背に、ゆっくりとコーヒーを淹れる時間が好きだ。じっと座って、あるいはお湯が注がれるのをのぞき込みながら、待っている人たち。

それが誰だったか忘れたわけではない誰かが、コーヒーは一人分よりも二人分を一度に淹れたほうがおいしいんだってと教えてくれた。その人と私の二人分で淹れたコーヒーは確かにそのときおいしいと思えたものだ。私は今でも、そのときよりも上等な豆で、そのときよりもまずいコーヒーを淹れて、飲んでいる。